縣:面白いお話は尽きませんが、このへんで、参加者の皆さんからご質問を受けたいと思います。質問用紙を回収している間に・・・アストロノミー・パブは今夜が18回目ですが、この席に座っていてビールをお代わりしたゲストは、池内さんが初めてですね!(笑)
それではまず、最初の質問・・・池内さんに質問です。「ダークマターやダークエネルギーの存在は、天文学が未だ、自然科学の中で未完成段階にあるということを示しているように思われてなりませんが、その点についてどう思われますか?」
池内:はい私はまさに、そう思います。まあ、僕はバランス派ですから(笑)半分肯定して半分否定する・・・と考えるとですね(笑)、ダークマターはしょうがないと思っています。この30年くらいの研究の積み重ねがありますし。ダークマターとダークネルギーの両方ともに言えることは、正体が何もわからない、捉えられていない、ということです。しかし、ダークマターの場合は30年の実績があって、まあ、何か見つかるだろうと思っていますが、ダークエネルギーの方は・・・ちょっとね・・・やり過ぎじゃないのかな、と言う気が、僕はどうしても、しています。
縣:と、言うのは?
池内:つまりね、観測に合うように入れた、ということです。それはまさに、観測結果が要求するように入れているわけですけれども、正体どころか、どういう物理量で働くものなのかもわかっていないんですよ。どういう風にして決定すればいいか、もよくわからない。ダークマターの場合は実験をやっているんですが、ダークエネルギーの場合は実験もできない。こんなの入れていいのかな〜(笑)。
場内:(笑いとともに、ざわめきが起こる。)
池内:私はね、「エーテル」(注)の復活ではないか、と思っています。
場内:(参加者一同、思わず「あ〜!」と感嘆の声。その後一瞬、しーんとする。)
池内:「エーテル」を追放するのにアインシュタインの天才が必要であったように、何か、天才が必要かもしれない。私は天才じゃないから、ぶつぶつ言うだけ(爆笑)なんだけれど・・・けれども、ダークエネルギーの考え方は、あの「エーテル」のように、何か今までの考え方に束縛されて「これしかない」と思っているんですね。全然違う考え方を取れば、違う解決の方法があるのではないか。
縣:(解決までに)何年くらいかかりそうですか?
池内:・・・難しいな。天才が出てこないといけないかも知れんし・・・10年、20年のスケールが必要かもしれないけれど。でもね、「エーテル」の場合は、ホイヘンスが「エーテル」について述べてから300年でしょう。今、時代は加速されているから、10分の1だとしても30年。一声30年かな?(笑)
縣:次の質問へ行きます。三浦さんに質問です。「大学では学生さんに天文学とアートの関係をどのように話していらっしゃいますか?」もともと天文学者で、今は美大の先生ですが?
三浦:そうですね。そもそも学生は、僕が天文学やっていたってことを知らない子が多いです(笑)・・・「CGの先生」「アニメーションの先生」あるいは「よくわからない先生」っていうところでしょう。僕は学生が、4年生くらいになったり大学院に上がってきたりして、映像を作り始め、作品を作ったりして・・・そうすると悩み始めるんですよね。難しさがわかってきて。そういうときに、例えば天文学の話であるとか、自分が考えているちょっと哲学っぽい話なんかをすると、お互いにすごく通じ合うところがあるので、長い目で見るようにしています・・・答えになっているのかな?(笑)
縣:(参加者に)もしも、もう少し聞きたいことがあったら、後のパブタイムで聞いてみてください。それでは、最後に池内さんに質問です。「科学を文学などへ関連づける方法をお聞きして、とても興味を覚えました。仏教では、入滅後56億7000万年すると弥勒菩薩が現れて人々を救うとされています。約50億年後というとちょうど、太陽の寿命と同じくらいですが、これは偶然の一致でしょうか?」(爆笑・拍手)
池内:56億7000万年後ですよね、弥勒さんが現れるのは。それまでは地蔵菩薩さんが助けてくれているんですが・・・偶然の一致かなぁ・・・(笑)。偶然の一致かどうかは別として、僕は、神話や宗教について「直感を得ている」、ということは評価しています。例えば、「宇宙は卵から生まれた」という神話がありますが、我々は今、エネルギーに満ち満ちた真空をイメージして宇宙の誕生を論じているわけです。それと「宇宙が卵から生まれた」というイメージとは、直感性としてはいいと思う。数値があっているかどうか、は別ですが。時間論から言うと、我々はどんどん流れる時間を生きているけれど、1つには「回っていく時間」という考え方も必要なのではないかと思う。これは、東洋的な転生輪廻の発想に近いですが・・・転生輪廻というとちょっとイヤですけれど・・・時間を一方的に流れるものではなくて、ゆっくり・・・戻ったりしながらゆっくりゆっくり流れていくようなものとして捉えるという発想もあると思います。先ほどの「56億7000万年」というのは、まぁ偶然だろうと思います・・・たまたま数字があっただけだろうとは思いますが、むしろそういう、回帰するような時間論というのは、僕はものすごく大事だと思っています。
縣:確かにそうですね・・・。後ろにも貼ってありますが、「宇宙図」というのを三浦さんとご一緒に作ったんですけれど、星の一生が回転しながら次々と、徐々に出来てゆく、という世界観ってあっても良いかもしれませんね。
池内:そうそう、僕は、「進む時間」と「廻る時間」と言っているんですが、いろいろ廻りながらゆっくり進んでゆく、螺旋階段のようにね、そういう風に世の中が変化しているんだ、という発想はものすごく大切だと思います。
縣:それでは、この後、パブタイムに移りたいと思います。池内さん、三浦さん、どうもありがとうございました!
(注)「エーテル」:エーテル(Aether)は、「きらきら光る」という意味のギリシャ語。19世紀以前の物理学で、空間に充満していると仮想されていた物質。麻酔薬などに使われるジエチルエーテル、(俗称エーテル)のことではない。 |