石黒:世の中、だんだん進歩しているものですから、ブラックボックスが多くなっています。今、皆さんがお持ちの、ラジオでも携帯電話でもそうですが、分解してみたところで・・・分解する人もあまりいないかもしれませんけれど・・・集積回路と言ってゲジゲジ虫みたいなのが入っているだけなんですね。ゲジゲジ虫をさらに切って分解する人も・・・まぁ、いないでしょうが、そうしたとしても、なかなか解からない。そういうブラックボックスになってしまっています。インターネットにしても、バーチャルな世界が増えていますから、先ほどの話にあったような、生々しい世界が少なくなっています。そういうところは、気にかけていかないといけません。
三宅:(大きく頷いて)そうですね・・・!
石黒:いくらわれわれの科学が進歩したとしても、原則は100年前くらいに解ったことにあり、それは変わりません。例えば電波の世界では、マックスウェルという偉い人が、「マックスウェルの方程式」というものを編み出して、その方程式を解くことによって電波とは伝わるのだということが解ったのです。それからヘルツと言う人が、今、その名前が周波数の単位を示す言葉になっていますが、火花放電から電波が出ているということを発見しました。それを使って、マルコーニが、1901年に大西洋で無線通信を始めました。そう言う事を経て、ラジオ、テレビ、携帯電話と言う世界があるわけです。
私は、NHKの「ようこそ先輩」と言う番組で、課外事業をやったことがあるんですが、生徒達に「電波ってどう言うものだと思うか」と画用紙に絵を描かせたんです。するとみんな、放送局からギザギザが出たり、携帯電話からギザギザを描いたりして、電波を身近に感じている。けれども、携帯電話で話しをしている時には、電波のお世話になっているとはなかなか意識しません。原理は何なのか、時々は昔に戻って見ることも大切だと思います。温故知新って言いますけれど、常に最先端というだけではなく、古い事を温めて新しい事へ向かうことが重要だと思います。
三宅:そうですね!何かを新しく知ろうとする時に、素人としてどういう問いを発するのか、何に興味を持つのか、が難しい時があります。興味を持っていないと聞けません。問いの言葉ってなかなか出て来ないのです。そうしたら、先ほどお話しした相田ディレクターは「そうなんだよ、興味がないと質問って出てこないんだよ。だから、学問は問いを学ぶって書くでしょう?」と・・・。
石黒:そうですね!全くそのとおりです・・・と言うわけで、(参加者に)皆さんも、興味をお持ちのことに質問をしていただければと思いますが。(笑)
三宅:素晴らしいですね!
縣:ありがとうございました。それではここで、質問を受け付けたいと思います。(笑)
まず、石黒さんに質問です。「アルマが完成すると、どのような、新しい事がわかるようになりますか?」
石黒:太陽系以外の惑星の姿を見たいと思っています。光の望遠鏡を使った観測では間接的な証拠で、恒星の周りを回る惑星がいる、ということを150くらい見つけていますが、それを画像で見た事のある人は、人類としてはまだ、誰もいない。アルマを使うとそれがわかります。円盤ができていて、その中のどこかに惑星の塊のようなものが今、生まれつつあるところだとか、ある軌道で惑星が生まれれば、そこの物質が消費されますから、土星のリングのような模様が見えるんですね。
三宅:(頷きながら、石黒さんの方へ身を乗り出す)
石黒:そう言うことで惑星の誕生がわかってきます。天文学も考古学と同じように、いろいろな時代のものを並べると進化がわかるんですね。化石を並べると生物の進化がわかるように、惑星も、遠くを見れば化石のようになっているわけなので、それを並べることで、惑星の誕生がどのようになって来たのかがわかります。私たちの地球がどうして誕生したのか、また、地球の上に存在している我々のような生命は、どうして誕生したのか。そして究極的な質問は、我々人類は、宇宙の中で孤独かどうか・・・。他に友達がいるのかどうか、ぜひ知りたい。なかなかそこまで行くのは大変でしょうけれども、そのとっつきは必ずできると思っています。
三宅:惑星が見られるのは、いつごろになりそうですか?
石黒:そうですね・・・2011年頃になれば、何か出てくるでしょう。
三宅:おっ!そんな遠くじゃないですね!
石黒:アルマが全部完成してスタートするのは2012年です。全部で80台パラボラが並びますけれども、干渉計は、全部できなくても、半分でもそれなりに観測はできます。そういうことで、どんどん結果が出てくると思います。
三宅:解りましたら、ぜひ、NHKへ!ぜひぜひお願いします。(爆笑)
縣:次は、三宅さんに質問です。「思い出に残る失敗談を教えてください」
三宅:うわ〜これは、いっぱいあるんですけれど・・・。僕はですね、実は・・・今も汗かいてますでしょ?さっきも申し上げたように、夢の世界だと思って憧れて、放送局に入りました。でも実は、自分自身があがりやすいってことを知らなかったんです。非常にあがりやすい人間なんです。
石黒:そうは見えませんけれどね・・・。
三宅:失敗はいくつもあります。盛岡放送局が初任地ですが、ラジオの番組を録音機担いで録りに行った時に・・・ホロホロ鳥っていうキジに似た鳥の飼育を始めた農家の方がいらして、私は、15分ほどのインタビューのために項目を考えて聞きに行ったんです。(椅子から下りて、マイクを差し向ける仕草をしながら)こうやって、マイクを持って聞いてますよね?そうしたら、その農家の方が下の方ばっかり見ているんですよ。「どうして下の方ばかり見ているのかな?」と思っていましたが、インタビューも終わったので「ありがとうございました」と言って帰ろうとしたら、その方が「あの〜マイクのコードさ、録音機に入ってないけど、いいのかい?」(爆笑)あがっちゃっていて、繋ぎ忘れていたのです。それから・・・これも盛岡の放送局でですが、新人のアナウンサーが担当する最初のステージ司会というのは、学校音楽コンクールの予選です。岩手県大会の予選で、審査員が当時、岩手大学の千葉先生と言う方でした。その先生を紹介しようとして・・・「ただいまより、全国音楽コンクール岩手県大会の予選を行います。まず、審査員の先生をご紹介します。千葉大学の・・・!」(笑)その後、言葉が繋がらなくなってしまって。本当に、あがることとの戦いでした。もう、これは修行ですよね。
縣:でも、三宅さんほどの大アナウンサーでもそうだとすると、何かちょっと、ほっとする、というか・・・(笑)、どう、乗り越えていらっしゃったんですか?何か工夫とか?
三宅:(笑)いや〜それがあったら、私も知りたいです・・・。途中で嫌になったんですよ。もう、向いてないから辞めようかと思って、でも他にできることもないから、ずっと続けてきて。最近思うのは、あがる、っていうことに対処するのは、最先端のアスリート・・・オリンピック出る人とか、それから、芸術家でピアノを弾く人とかバイオリンを弾く人も、そう言う人たち全てが課題にしていることなんです。自分の気持ちを、普段とちょっと違う場でも、いかに平静に保つか。それは、たいへんな事なんですけれど、人間が立ち向かって行くにはなかなか面白い課題で、最大の課題です。あ、自分はそれに立ち向かっているんだ、と思うと、何だかちょっと面白くなってきます。
石黒:私も、国際会議などで発表するときなどにあがりますけれど、実は、あがる、ってことは必要なことなんです。ギリギリのところで、最大限に努力しているからあがるんです。これが、手抜きに手抜きを重ねていれば、非常にのんびりしていますからあがらないでしょう。ギリギリのところを挑戦しているからなのです。音楽家でも、演奏会でより良い表現をしようと思っているので、いつもの練習のように気楽に弾けばいいと思っているのではないから、あがるんだと思います。
縣:自分の本当の力を発揮できるかどうか、ということですね。すごい、人生への示唆が含まれています。(爆笑)
質問がたくさん来ているので、とても全部はご紹介できません。後で、また個々に聞いて頂きたいと思いますが、石黒さんにいくつか似たような質問が来ていますので、それをまとめて・・・「先ほどのお話に出たファーストウェイブは何の天体だったのですか?」「ファーストフリンジなどで、印象に残っている天体があったら教えてください。」
石黒:野辺山の干渉計で最初に受けたのはW49というわし座にある水蒸気の分子が発する電波です。これは、周波数でいうと22.235ギガヘルツ、波長で言うと1.35センチという波長なんですが、とても強い電波が出ているので装置をチェックしやすいんですね。そういうことで、その天体を選んで観測しました。印象に残っているのは・・・野辺山の干渉計でやってきたことの中では、さっきも紹介しましたが、惑星系形成の様子で、まだピンボケですけれど、円盤が回転している、ということが撮られた時ですね。
縣:最後に、三宅アナウンサーに質問です。「もしも将来、宇宙から実況中継ができることになったら、どういうことをやって見たいですか?」
三宅:・・・行きたいですね!そして、喋らず、見ていたい!!(爆笑・拍手)テレビって、説明しなければいけないでしょう?それは必要なことなんですけれど、でも、テレビを見ている人が感じる、と言う部分もあっていいのではないか、と思っています。NHKでは今度、スーパーハイビジョンというのを開発しまして・・・すいません、宣伝みたいになっちゃいますけれど、これは相当、良く見えるんです。技術者に言わせると、今までのテレビは「見る」だったけど、今度からは「感じる」テレビになる、って言うんですよ。それならば、リポーターは行くんだけれど、喋らないで、ただ見てもらう。特に、天体って黙ってじっと見ていたいものではないでしょうか?
それが夢ですね!リポーターで行って、喋らない!(笑)感じていただきたいと思います。
縣:お2人にあらためて、拍手をお願いいたします。どうもありがとうございました!(拍手) |